シャイアー買収が決まって以来、武田薬品のMRの皆さんはいろいろと考える機会が増えているのではないでしょうか。
それもそのはず、自社よりも時価総額の大きな会社を買収したからにはそれ相応のリターンがなければ投資は失敗ですし、今回は直近のナイコメッド社やアリアド社のように失敗してもスルーできる規模の買収ではないですからね。
シャイアーを買収した武田薬品がグローバルで成長していくことができなければ、未だに2000名を超える日本法人のMRも今度こそただでは済まなくなることは他の多くの製薬企業が証明しています。
日本屈指の優良企業であった武田薬品が今後どうなっていくのか、勝手に予想してみたいと思います。
シャイアーの買収は成長に繋がるか
まず、武田薬品とシャイアーの企業規模をざっくりとみてみたいと思います。
武田薬品
売上高(2017年)約1兆7700億円
純利益(2017年)約1570億円
時価総額(2017年)約4兆4千億円
シャイアー
売上高(2017年)約1兆6200億円
純利益(2017年)約4600億円
時価総額(2017年)約4兆8千億円
売上高、時価総額はほぼ同等の両社ですが、純利益はなんと4倍もシャイアーが上回っています。
経営効率の良いシャイアーを買収することで利益効率の向上が期待できますのでこの点においてはメリットがあります。
しかし、シャイアーには過去の企業買収案件によってできた約2兆円の有利子負債があります。
武田薬品もミレニアムファーマ、ナイコメッド、アリアドと立て続けに買収してできた約1兆円の有利子負債に加えて、今回のシャイアー買収によって新たに3兆円の借入をしていますので、合わせてなんと6兆円の有利子負債を返済していかなければなりません。
武田薬品の年間純利益が約1500億円、シャイアーが約4600億円、合わせて約6000億円ですが、この利益規模を保ちながら全額を借金返済に充て続けても利息抜きで約20年かかります。
しかし、この6兆円の借金には当然のように毎年利息がかかります。
米国と日本にそれぞれ借り入れをしているため正確な金利はわかりませんが、平均して2%としてもなんと年間約1200億円の利息がのしかかってきます。
武田薬品単体の年間純利益がほぼ吹き飛ぶほどの利息は非常に重いと言わざるを得ません。
一方で、武田薬品は毎年配当金だけで純利益を上回る1400億円以上支払っています。
シャイアー買収によって新たに現在の発行済株式数とほぼ同数の株式を発行する予定です。
1株あたりの配当金額(DPS)を維持しようとすると、支払わなければならない配当は年間約2800億円になります。
借り入れという投資を上回る利益を出すことが求められるにもかかわらず、有利子負債の利息と合わせると年間4000億円が「ムダに」飛んでいってしまうため会社を成長軌道に乗せることは並大抵ではないことが容易に想像できてしまうのです。
では、成長軌道に乗るための開発品目に目を向けてみると、シャイアーにはフェーズⅢの案件だけで15個あり、フェーズⅡ以下も両社を合わせると非常に豊富です。
結局のところ、合併した両社の新薬開発に関わるリソースを集中させて良い製品を複数上市させることができるかどうかに全ての命運がかかっているのだと思います。
合併後の売り上げ規模は世界で9位となり、念願のトップ10に日本企業がランクインすることになりましたが、今後も利益を成長させていくことができなければこのポジションをキープすることができずすぐに元の位置に戻ってしまいます。
売上げで年間数千億規模の新薬をこの数年間で複数上市することができれば、更に強い武田薬品となってグローバルメジャー企業として認知されるようになると思います。
武田薬品がメジャープレイヤーに定着するためには
ウェバー社長が今後も引き続き武田薬品を率いていくのならば、その経営手腕の見せ所はまさにこの数年になるとみています。
ウェバー社長は、武田の創業家からグローバルトップ10内に入ることをミッションとしてGSKから引き抜かれたという説もあります。
もしも、任期内にそれを達成するために今回の買収で融資をした米国J.P.モルガン・チェース銀行にそそのかされてシャイアー買収を実行したのであれば、今頃はいつ武田薬品から逃げ出そうかということばかり考えているかもしれません。
しかし、経営者としての手腕が確かなのであれば、武田薬品の将来は以下のいずれかまたは全てを大胆に実行できるかにかかっているのではないでしょうか。
☆配当金を一時減配あるいは無配にする。
☆余剰人員を大幅に削減して経営効率を高める。
☆R&Dを絞り込み、特定の領域に資金を集中させる。
☆結局はブロックバスターを掘り当てる。
配当金は特に今後も年間4%程度を維持できるとはとても思いません。一時的に株主が離れ株価が下がっても、この2800億円の配当原資を研究開発に注ぎ込むという大胆な方針を取れるかどうかには特に注目しています。
また、両社合わせて5万人以上の社員を如何に効率化させるかということも重要になります。
武田薬品のMRがリストラされる日
そういう意味では、日本法人でもMR数の削減は避けられないのではないでしょうか。
現在の2000名を超えるMR数はマンパワーの必要なプライマリー領域の競争を前提とした数であり、この領域がピークアウトした今では間違いなくこんな多人数は必要ありません。
武田薬品は超優秀な社員を採用する代わりに無慈悲なリストラは極力行わない社風なので、同業他社がことごとく大規模なリストラをしてもMRを大幅に減らすことはしてきませんでしたが、今回こそは生き残りをかけていますのでやらざるを得ないと思います。
武田薬品が近い将来、グローバルメジャーとしての地位を確立しても、喜べるのは経営陣と株主くらいであり、MRなど末端の社員が得られるものと言えば自己満足くらいのものです。
むしろ経営効率化によって徐々に福利厚生やボーナス、昇給や昇格のポジションが減らされるということが買収を行ったほとんどの企業で行われていることなのです。
武田薬品のMRの方は国内最高峰の優良企業に入社できたことによってその後、転職などの選択肢を考えたこともない方もいるかもしれません。
家族や親族、友人からも羨望の眼差しを向けられたことでしょう。
シャイアー買収によってさらにグローバルでも大手になるとしたら、更なる希望を抱くMRの方もいるのでしょうか。
そういう方には上記のような話は寝耳に水になっているかもしれませんが、武田薬品もグローバル企業になっている以上、私は間違いなくそうなると確信しています。
日本型経営が通用する時代は30年前に終了しています。
製薬業界ももはや聖域はありません。
武田薬品のMRの方も、より自分の価値を評価してくれる会社へ転職するという選択肢を本気で考える局面に来ています。
幸い、日本では武田薬品のMRというだけでほとんどの会社が高い評価をしてくれますので転職市場では圧倒的に有利になります。
知り合いのエージェントも、ここ最近で武田薬品MRのアプローチが急に増えたと言っていました。
自分のキャリアについて真剣に考えているMRはすでに動いています。
通常、転職を本気で考えなければ転職サイトに登録したりエージェントに相談したりするのは面倒なものです。
しかし、今の転職市場はここ数年の各社のリストラで転職希望者が溢れているので、いざ転職しなければならなくなってから準備を始めたのでは遅いのです。
どちらにしてもエージェントから情報収集だけはしておいた方が良いですよ。
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