こんにちは。
現役MRのリョウタです。
ご存知のとおり、いまMRに非常に強い逆境が吹き荒れています。
もともとはひと昔前の、プライマリー薬が全盛期の時代に増えすぎたMRを適正な人数に戻すために各社が希望退職を実施してきたのですが、そこへ薬価制度の抜本的改革、販売情報提供活動ガイドラインの施行、そして新型コロナウイルスの流行と立て続けにMRの存在を否定するイベントが起こってしまいました。
以前からMRのデジタルツール活用による営業活動の効率化は日本でも課題として叫ばれていたのですが、新型コロナウイルスの流行によってその加速度は全開になりました。
最近取材を受けている日本の製薬会社社長や役員の方々のコメントを見ていると、以前のような「営業活動のあり方について議論している」という段階ではなく、「MR数の削減も含めて急いで効率化しなければならない」というニュアンスに変わってきています。
それを再確認するため、これまでの社長さんたちのコメントを集めてみました。
自社に対してはもちろん、業界全体にも影響力があることを承知でこのような立場の方々がコメントするということは、相当強い意思を持っているんだと思います。
「MR不要論とか煽りでしょー。」
「削減されるのは働かないオヤジMRとか仕事できないやつだけでしょー。」
という感じで対岸の火事だと思っているMRの方も思考停止せずにフラットな視点で製薬業界の中心となる企業のトップがどう思っているかを注視すべきだと思います。
目次
既に動き出した武田薬品
武田薬品で日本の事業を統括する取締役の方は5月にメディアの取材に対して、「従来型のモデルでは将来の日本市場で最適なビジネスができるとは思っていない」「デジタルのエコシステムが構築される中で、どう事業展開するかが鍵になる」ということを強調されています。
武田薬品では新型コロナ以前からデジタルの活用を進めており、営業体制のスリム化は段階的に進めることが決まっていたようですが、新型コロナの影響を鑑みてその計画をを2~3年早めることを明言されました。
それから3か月ほど経過したつい先日、実際にMRを中心とした希望退職を実施すると破票しています。
おそらく5月に取材を受けた時点で今回の希望退職は決定していたでしょうし、もっと言えばシャイアーを買収した2018年の段階で5年程度先までの組織体制について議論されてきたはずです。
そう考えると武田薬品は新型コロナによって営業体制の見直しを考えたわけではないのでしょうが、希望退職プログラムの規模を変更した可能性はないとは言えません。
いずれにしても武田薬品はMRを減らす必要があるかないかという議論が盛り上がっている中、すでにMRの人員削減を先陣を切って実行した会社になりました。
実際の行動によって日本のMRは多過ぎるということを示したということになりますね。
明確にMR過多を表明した塩野義製薬
塩野義製薬も武田薬品と同様に国内の営業体制の早急な見直しが必要と考えていた会社です。
2018年3月の決算説明会で社長が「国内営業は相当大きな見直しが必要で、MRの数はすさまじく減らないといけない。今年度から踏み込む」と強調したことで話題になりましたね。
また、2020年5月のメディア取材に対して「業界全体としてMRの数は減って行かざるを得ないだろう」と自社だけでなく業界全体として現状のMR数が多過ぎるという認識を示しています。
塩野義製薬は大規模なリストラはほとんどやったことがない会社ですので、その後も自然減を中心に、従来新卒入社社員の6割をMRに配属していたのを4割以下にしたり、MRをMSLや開発に配置転換させたりしてリストラをすることなくMR数の削減を実行しています。
生き残りを賭けた今の局面でも無慈悲にリストラをしないところは非常に内資的ですね。
かつては「営業のシオノギ」と謳われていたくらい営業に並々ならぬ力を入れていた塩野義製薬ですが、いつまでもブランドイメージにこだわり続けず柔軟に方向転換することができるのはさすがです。
また、「デジタルが今後の情報活動のベースになり得る」と明言しており、営業活動の改革に積極的なところも、昔のゴリ押し営業手法を引きずっていないという意味で非常に柔軟な組織だと感じます。
MRの仕事の方向性についても言及されており、「医薬品のことだけでなく、疾患そのものの治療の相対的な情報を提供できるMRを目指していかないといけない」とか、「たまたま当社の医薬品がフィットすればそれを使っていただく。そうでなければ疾患の全体的な相談相手になる。このようなMRを育成しなければいけない」と、私が他の記事で述べたことに非常に近いことをおっしゃっていますね。
結局、医師もデジタルで自ら情報を取ることが当たり前になり、それなりのメリットがなければMRと面談しなくなるのであれば、MRが専門医並みの疾患知識を身につけるしか面談の時間を割いてもらう方法はなくなっていくということではないかと思っています。
企業に利益があるうちに雇用削減したい大日本住友製薬
2016年、2017年と続けて人員削減を実施している大日本住友製薬も、武田薬品や塩野義製薬と同様の考えです。
人員削減を連続してやっていますのでイメージとしてはドライな印象を受けるのですが、メディアの取材に対するコメントを見ると苦渋の決断であることがわかりますね。
「今後、日本市場は縮小していくだろう。新薬で穴埋めをできれば雇用も維持できるが、なかなかそうもいかず、企業によっては人を減らさざるを得ない。それが普通の経営者の感覚だ。」
「雇用の削減は、経営者が考え抜いた末の大きな決断だ。単に経済の原理原則や、生産性うんぬんといったものではない。実際の経営がそう単純ではないことは理解してほしい。」
内資系の経営者は塩野義製薬や大日本住友製薬のように考えるのが一般的なのでしょうね。
また、早期退職についてこのようにもコメントされています。
「早期退職は1度やるともう2度とやりたくないが、せめて企業に利益がある時でなければ辞めていく社員に対して十分な手当ができない。社員が退職して数年間は食べていけるようにするには大変な金額の退職金が要る。企業に利益がなくなってからでは十分な手当てができず、辞めた社員が困窮する。」
大日本住友製薬のトップのコメントは非常に人間的なもので、外資系企業ばかり4社渡り歩いている私からすると考えられないようなコメントです。
これが近年の内資系企業の利益成長を阻んでおり、外資系企業との競争を不利にしている一つの要因になっているといえばその通りなのかもしれませんが、しかし日本の高度成長期に日本企業が信じられないような大成長を遂げたのも、企業の経営陣にこういった考え方があったからだということも間違いないと思います。
人員削減ありきではない田辺三菱製薬や中外製薬
この5年間くらいで顕著にMR数を削減している田辺三菱製薬の社長も最近、メディアの取材に応えています。
最も注力するのはやはり海外事業で、日本の市場には悲観的ではあるようですが、MRのあり方としては下記のようにコメントしています。
「デジタルとアナログを組み合わせて、効率的で価値の高い仕事をできるかがポイントだ。人員削減ありきではない。」
やはり、日本人の社長にはこういった人情味がありますね。
同様に中外製薬の社長も取材に対するコメントではこのように発言しています。
「価値創造の源泉は、やっぱり人だ。」
経営陣のコメントには常にこのように人を大切にする意識が現れています。
ロシュの100%子会社になり、外資系ではありますが、自主的な意思決定を行うことができるのが非常に良い方向にいっているんじゃないでしょうか。
しかしながら中外製薬は業績も好調の中、2019年早期退職を行っていますので、営業組織のスリム化については相当にその必要性を感じているということではないかと思います。
経営陣の想いだけではどうにもならないことを判断しなければならないというのが今の日本市場の現状だということが逆によくわかりますね。
沢井製薬や東和薬品も
現状の日本のMR数については、後発品大手の沢井製薬の社長も「今後、MRの数はそんなにいらなくなる」とコメントしていますし、東和薬品の社長も「情報提供のあり方は相当変わっていくのではないか」「もう少し先かなと思っていたが、早く変えていかないといけない」とコメントしているように、同様の見解を持っています。
日本の後発品市場は伸びており、今後もバイオシミラーなどが出てくる局面で、後発品大手2社の社長が先発品大手と同様の考えを持っていることに少し驚きました。
MRの希望退職については両社ともまだ検討していないとしていますし、そのへんの動きは先発品の大手ほど早くはありませんが、それでも営業体制の見直しについては進んでいくんじゃないかと思います。
後発品メーカーこそMRの数で勝負する必要性が高いんじゃないかと思ってしまうのですが、やっぱりすべてでそういう時代じゃなくなっているんですね。
まとめ
この半年の間に公の場でコメントした多くの企業のトップが、口をそろえて同様の見解を述べているのを目の当たりにすると、MRはまだまだ削減されていくんでしょうし、業績が良いとか悪いとか、MR個人の成績がどうとかという次元ではなく企業の存続をかけた判断が迫っている会社もあるんじゃないかと思います。
一般の社員や一個人の見解ではなく、医薬品業界の大手企業のトップのコメントがこれほど揃っていることについて、もう一度よく自分の人生プランと合わせて考えないといけないなと改めて思った次第です。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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