こんにちは。
現役MRのリョウタです。
長年の間、日本の製薬企業は欧米のメガファーマに比べると規模や開発力で遅れを取ってきており、またイノベーティブな新薬を開発するバイオベンチャーの力の差も歴然としています。
2019年に武田薬品がシャイアーを買収することにより、規模の上ではようやく世界の売上高トップ10に日本企業が入ることができました。
武田薬品がメガファーマに定着するためにはまず膨大な買収費用を回収する必要があり、前途多難な未来が待ち受けているかもしれませんが、それも既存の日本企業の殻を破るためには越えるべき壁だとも思います。
しかし、日本企業には国内の医療制度のぬるま湯に浸かりきってイノベーションを起こす力も壁を越える気力もなくなっている会社が存在しています。
これらの会社が、国内の医薬品市場の縮小が間近に迫っている今の状況から、革新的な成長企業へと転換できる道はほとんどなくなっているように見えます。
私は自分が生まれ育った国である日本の企業には頑張ってほしいと思っていますが、あまりに保守的な経営を続けてきた企業について、敢えて取り上げてみたいと思います。
ちなみに、取り上げる会社のMRの方を批判するものでは決してありません。
これらの企業にいるMRについては優秀な方を何人も見てきていますし、MRの方の努力と企業の経営は別です。
製薬会社の営業利益率
営業利益率とは、売上高から製造原価と販売費や一般管理費を差し引いた利益のことで、単純にいうと「会社の本業で得られた利益」のことを指します。
皆さんもご存知のとおり、医薬品卸の営業利益率は1%前後ということがほとんどです。
しかし、製薬メーカーだと10%代は当たり前で、高利益率体質の企業だと20%代や30%代ということもあります。
【製薬会社の営業利益率】
会社名 | 2010年(%) | 2015年(%) | 2019年(%) | |
1 | 武田薬品工業 | 25.9 | 7.2 | 9.8 |
2 | アステラス製薬 | 12.5 | 18.1 | 18.8 |
3 | 第一三共 | 12.6 | 13.2 | 9 |
4 | エーザイ | 14.7 | 9.5 | 13.4 |
5 | 中外製薬 | 17.5 | 17.4 | 30.7 |
6 | 小野薬品工業 | 26 | 19 | 21.5 |
7 | 大塚HD | 11.2 | 10.5 | 12.7 |
8 | 塩野義製薬 | 16.6 | 29.5 | 38.1 |
9 | 田辺三菱製薬 | 18.7 | 22 | 11.8 |
10 | 参天製薬 | 27.7 | 41.1 | 19.3 |
11 | キッセイ薬品 | 10 | 14.4 | 8.6 |
12 | キョーリンHD | 15.8 | 16.4 | 7.9 |
13 | 久光製薬 | 20.6 | 17.1 | 15.5 |
14 | 持田製薬 | 14.7 | 13.2 | 9.7 |
15 | 科研製薬 | 16.4 | 32 | 26.1 |
16 | 日本新薬 | 8.2 | 10.2 | 18 |
17 | ゼリア新薬工業 | 6.7 | 7.3 | 6 |
18 | ツムラ | 22.7 | 17.6 | 15.3 |
19 | 鳥居薬品 | 4.1 | 7.9 | 3.3 |
20 | 日医工 | 11 | 9 | 4.9 |
21 | 沢井製薬 | 21.3 | 18.8 | 14 |
22 | 東和薬品 | 20.9 | 13.6 | 15.2 |
23 | 日本ケミファ | 7.3 | 8.8 | 4.3 |
卸の営業利益率を考えるとどの製薬メーカーも高い気がしますが、しかし純粋な製薬メーカーで営業利益率がずっと一桁というのは、あまり宜しくない気がします。
高い営業利益というのは、リスクをとって積極果敢に自社で新薬の研究開発を行い、自社で価値のある製品を生み出すからこそ得られるものです。
ずっと営業利益率が低い会社というのはそういうリスクを取らず、他の会社が開発した製品をお金を払って仕入れて販売することばかりになってしまっている状態である可能性が高いのではないでしょうか。
こうしてみると、ゼリア新薬や鳥居薬品は昔から低利益率であり、いわゆる製薬メーカーの利益水準ではないです。
同じ中堅クラスでも久光製薬や科研製薬と比べると、どちらが企業として評価されるべきかは一目瞭然ですね。
海外売上高比率
内資系大手各社は早い段階で海外での売上を重要視しており、今では多くの会社で日本国内よりも海外での売上げの方が大きくなっています。
協和発酵キリン、田辺三菱製薬、小野薬品あたりの準大手も着実に海外の売上げ高比率が伸びていることを見ても、内資系の製薬メーカーがこぞって海外を重要視していることがわかります。
【内資系大手製薬会社の海外売上高比率】
上記の表の大手と比較すると、下記の表の中堅は明らかにその比率が低いのがわかります。
比率が10%以下の会社もザラにありますし、中には海外で売上げがほぼゼロの会社もあります。
会社としての方向性や生き残り戦略もあるかと思いますが、海外売上高ゼロはどうかと思います。
日本はすでに人口が減少していますので、必然的に市場は縮小していきます。
その中だけで売上高と利益を成長させていくのは並大抵ではありません。
大手と表の推移が逆になってしまって申し訳ございませんが、薄いグレーのところを見て頂ければと思います。
【内資系中堅製薬会社の海外売上高比率】
先ほどの営業利益率は高くなかったゼリア新薬や日本新薬は海外売上高比率においては健闘しています。
また、営業利益率が高かった久光製薬は、海外売上高比率においても秀でていることがわかります。
売上げは世界中のどこで上げても売上げなのですから、海外売上高比率が堅調な久光製薬やゼリア新薬などと、ほとんどゼロのあすか製薬やキョーリン製薬、鳥居薬品、持田製薬などとを比較すると、どちらが将来にわたって売上げが安定しそうかはすぐにわかりますね。
MR数と1人あたりの生産性
調べていて驚いたことの一つがMR1人あたりの生産性です。
大手と中堅できれいに分かれており、中堅企業は軒並みMRあたりの生産性が低い傾向にあります。
2018年MR1人当たりの生産性 | |
会社名 | MR1人当たりの生産性(百万円) |
参天製薬 | 331.1 |
エーザイ | 258.9 |
中外製薬 | 246.5 |
第一三共 | 227.8 |
武田薬品 | 218 |
小野薬品 | 174.2 |
アステラス製薬 | 175.5 |
大正製薬HD | 118.3 |
杏林製薬 | 117.9 |
科研製薬 | 111.3 |
日本新薬 | 107.6 |
旭化成ファーマ | 89.2 |
キッセイ薬品 | 82.9 |
三和化学研究所 | 82.6 |
これはなぜか?ということになりますが、単純に売上高とMR数を見てみると、大手と中堅には大きなギャップがありました。
大手と中堅では売上高に10倍以上の開きがありますが、MR数が10倍いるのかとういうとそうではなく、中堅には大手の3分の1や4分の1くらいの数のMRがいます。
これでは中堅企業の営業利益率やMR1人あたりの生産性が低くなるのは当然です。
先ほどお示ししたとおり、大手は50%以上海外で売上げを上げていますので、単純に売上高と日本だけのMR数を比較に出しても意味はないかもしれませんが、中堅メーカーに本当に700名や800名のMRが必要なのかは議論が必要なところかもしれません。
外資系では、自社の主力品のパテント切れに伴ってこの5年間で500名以上減らしている会社は何社もあります。
中堅がMRを減らさないのは単に社長や経営陣が社員に対して思い入れを持っているとか、リストラはしないと約束しているとかという理由であることが多いと聞きます。
MR数を200名~300名くらいにすれば営業利益率が二桁と高利益体質になり、投資家から高い評価を受けられる企業もあるように見えますが、なぜそれをしないかというと本当に社員思いの社長だからなのかもしれません。
ゼリア新薬やあすか製薬はひと昔前と比べてMR数をかなり減らしており、もしかするとそのあたりのことを意識しているのかもしれません。
株価の推移
これまでご紹介したような項目をすべてひっくるめて評価された結果がそれぞれの企業の株価に反映されています。
中堅製薬メーカーの株価を2000年、2010年、2020年の同時期で比較したところ、最も上昇しているのは日本新薬です。
会社名 | 2000年1月株価(円) | 2010年1月株価(円) | 2020年1月株価(円) |
あすか製薬 | 780 | 653 | 1,274 |
旭化成 | 540 | 482 | 1,194 |
科研製薬 | 1,192 | 1,552 | 6,040 |
キッセイ薬品 | 1,613 | 1,875 | 3,130 |
キョーリン製薬HD | 2,440 | 1,366 | 1,928 |
ゼリア新薬 | 846 | 773 | 2,107 |
鳥居薬品 | 2,690 | 1,744 | 3,285 |
日本新薬 | 554 | 1,103 | 9,850 |
久光製薬 | 636 | 3,190 | 5,600 |
明治HD | 1,650 | 1,775 | 7,540 |
持田製薬 | 1,493 | 2,098 | 4,445 |
日本新薬の株価はこの20年間で約18倍と素晴らしいパフォーマンスです。
さらに、中堅製薬メーカーの中では営業利益率や海外売上高比率で良い数字が出ていた久光製薬も、この20年で株価が8.8倍に上昇しています。
逆に、この20年間で株価を下げているのはキョーリン製薬です。
キョーリン製薬は営業利益率も高くなく、海外売上高比率はほとんどありません。
新薬も国内ではちょくちょく開発しているイメージですが、いつも他社と共同開発していて完全に自社だけで開発する力がないのでしょうか。
決して将来有望と思えない他の中堅製薬メーカーの株価が上昇している中、顕著に下落している理由としては、減少し続ける売上げや利益以外にもその辺の経営方針にもあるのかもしれません。
まとめ
これらの中堅クラスの企業は、積極的な活動をしていけば、まだまだ世界で戦えると個人的には思っています。
今まで大人しかった中堅企業も、今後は海外の企業を積極的に買収している大日本住友製薬や、異業種と提携してイノベーションを起こそうとしている塩野義製薬などに習って事業展開することを考えていくべきではないでしょうか。
また、規模的に厳しいのであれば合併も視野に入れる時期に来ていると思います。
2020年代はぜひ中堅企業からそういったニュースが次々と出てきてほしいですね。
「将来が心配な~」という題名にしましたが、将来に希望が持てる会社が増えてほしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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