こんにちは。
現役MRのリョウタです。
何年か前、私が以前所属していた外資系大手製薬会社でMRをしていた女性の後輩MRがクビになったという話を聞きました。
希望退職に応募したとかそういう話ではなく懲戒解雇だったそうなので、何があったのか聞いたところ、「理由を話すので相談に乗ってほしい」ということでしたので、その当時に直接会って相談を聞いてきました。
相談というのは退職後の転職についてだったのですが、私のお世話になっていたエージェントの方の尽力もあってなんとか無事にMRとして転職することができたんですね。
ただ、後で別の人から聞いた話によると、本人の話とは少し懲戒解雇の理由が違っていました。
「まさか、アイツがそんなことやっていたなんて・・・」
とちょっとショックでしたが、今の時代誰でも注意すべき案件でしたのでこっそり共有させて頂きます。
女性MRの後輩がクビになった経緯
この後輩MR(Aさん)は仕事はコツコツ真面目にやるタイプで、新人で入社してきたときから非常に細やかな仕事ぶりでよく気が利くMRでした。
こういうのもなんですが、ビジュアルがとても良かったので取引先や顧客からも人気のMRでした。
私が会社を転職したのでその後はあまり連絡を取っていませんでしたが、成績も良かったので大きな市場を任されていたそうです。
なのに、なんで突然クビになったのか聞いてみたところ、このような話でした。
「当時から2年以上前に実施した説明会で配布したお弁当代の単価が3,000円を誤って超えてしまっていた。これは重大な公正競争規約違反、さらにコンプライアンス違反にあたると言われてそれ以上の弁解はできなかった。」
「自主退職は認められず、懲戒解雇が適用されてしまうみたいなので今後の転職活動にも支障が出る。転職したことがあるリョウタさんなら相談に乗ってくれるかなと思って連絡した。まだMRを続けたいのでどんな形でもいいから製薬会社に転職したい。何かいい方法はないか?」
たしかに上限金額を超えるお弁当を配布するのは華美・過大なサービスの提供として規約で制限されていますし、MRとしては非常に注意しなければならないところです。
しかし、聞いたところによると何度もやっていたわけではなかったみたいですし、わざとではないと言っていました。
たった1度の過失による公競規違反で問答無用の解雇というのは、あまりにも罰が重すぎて不自然だと感じました。
でもその場で本人とそのような議論をしても仕方がありませんし、とにかく転職先を探さないと退職日も設定されてしまっていますから、私が一番お世話になっているエージェントの方に相談しました。
すると、「少し特殊でむずかしい案件ではあるが、なんとかなるかもしれない」と言ってくださり、実際に何社かの製薬メーカーと交渉して頂いた結果、そのうちの1社と面接することができ、相談された日から1ヶ月ほどで無事に内定を貰うことができました。
なんとか本人の希望通り再びMRとして仕事ができることが決まって良かったのですが、相談を受けた時には非常に理不尽な話だと感じました。
会社の人員削減の一環として、MRが提出した過去の領収書をほじくり返し、粗探しをして無理やりに懲戒解雇しているんだと、所属していた会社に対して怒りを覚えました。
しかし、後々に他の人から聞いた話では、どうもAさんは説明会の領収書で懲戒解雇になったのではなかったようなのです。
Aさんは自分で使う化粧品などを大量に購入して精算してきており、それが明らかに業務で必要な経費ではないということで悪質と判断されて上記のような懲戒解雇に至ったということでした。
Aさんは自分に都合がいいように解雇理由を私に伝え、肝心の部分は隠していたということです。
まあ、新人時代にはそこまでしたたかなヤツだとは思いませんでしたが、私が会社を退職してから数年経っていますので、変わっていたとしても不思議はないですね。
ちなみに、複数の人を巻き込んで望み通り製薬会社に転職したにもかかわらず、半年で寿退社したそうです。
ギリギリ半年は在籍していたのでエージェントと転職先の製薬会社との契約には問題がなかったようでホッとしましたが、こういう義理人情がわからない人はこれからも人生苦労するだろうなと思ったエピソードでした。
会社が社員をクビにする方法
欧米に比べて日本は、労働法によって正社員を解雇することがむずかしい国です。
仕事ができないやつだからとか、上司の言うことを聞かないやつだからというような理由で解雇することはできません。
Aさんは自分の化粧品を経費で落としていたということでしたが、それで会社は正社員を解雇にすることができるのでしょうか。
労働契約法の解雇要件
従業員の解雇に関する法律は労働契約法第16条に明記されています。
労働契約法第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
会社が従業員を解雇することが可能なのは、次の3種類のいずれかの理由になります。
ア 普通解雇
イ 懲戒解雇
ウ 整理解雇
アについては、病気やけがによる就業不能、業務命令に対する違反、経営難による人員整理などが理由になりますが、いずれにしても客観的に合理的な理由かつ社会通念上相当であると認められない限りは不当解雇として無効になってしまいますから、会社にとっては非常にリスクが高い理由になります。
イはアと同様に客観的合理性と社会相当性が必要になりますが、社員の違反などに対し懲罰として解雇する際の理由になります。
具体的には以下のような理由が解雇事由にあたります。
・業務上の地位を利用した犯罪行為
・会社の名誉を毀損する犯罪行為
・経歴詐称
・長期間の無断欠勤
・重大なセクハラやパワハラ
・懲戒処分後の再犯
ウはいわゆるリストラで、人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、解雇する従業員選定の合理性、手続の相当性の4つの要件を満たすことが必要になります。
Aさんの場合
今回のAさんは私物の化粧品を会社の経費で購入していたということですから、イの懲戒解雇を理由にしてクビにされたわけですね。
「業務上の地位を利用した犯罪行為」つまり業務上横領に該当するかと思いますが、懲戒解雇の場合には横領の金額の大小はそれほど問題にならず、客観的合理性と社会相当性が認められれば解雇は可能です。
業務上横領や着服は悪質な場合には刑事罰の対象になり得るため、軽い気持ちで私物を経費精算するのは本当にやめた方が良いですよ。
MR減少時代だからコンプラも厳しくなる
Aさんが何らかの理由で特別にロックオンされていたのかどうかまではわかりませんでしたが、これからの時代はただでさえ製薬企業がMRの数を減らしたがっていますので、一度会社ににらまれたら回避することが難しくなっていくでしょうね。
希望退職を募る前に、まずは全ての社員の領収書を過去何年もさかのぼって調べれば、明らかに問題がありそうな領収書がきっとみつかるでしょう。
その中から、法務部や弁護士と相談して懲戒解雇が可能でありそうな案件をピックアップすれば、安上がりで社員を減らすことができてしまいます。
これとPIPのようなプログラムを合わせると、莫大な経費をかけることなくある程度は低コストでMRを減らすことができますので、外資系は今後もこの手の事例が増えてくることが予想されます。
厚労省の販売情報提供活動ガイドラインについても、今後は懲戒解雇の理由として扱われるようになる可能性がありますし、MRの包囲網は厳しくなっていくばかりですが、大切なことはとにかくこれらのガイドラインやコンプライアンスに違反しないということですね。
売り上げをあげるためにこれらに違反したり、グレーなことをやっているとAさんのようになる可能性が誰にでもあるということを今後はさらに認識しておく必要があります。
Aさんも、成績は優秀だったわけですから。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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